どうも、ねじまきです。
6月はいろんなものに追われてニュースレターに手を付けられてなかったので、
一か月遅れで『バター / 柚木麻子』の読書会を配信していきます。
先月、読み終わった方が数人おられるのをSNSでみていて本当に申し訳ないなと思いつつも、温かい目で1月半遅れの読書会を楽しんでいただければ幸いです。
※ちなみに8月は『五分後の世界 / 村上龍』の読書会を予定してます。
「五分後の世界」、学生の頃一度読んだことがあるので9年振りぐらいの再読ですが、かなり記憶が薄れているので、戦争が絶えない今だからこそ読み直そうかなと。
長編にしては短めなので、村上龍を普段読まない方もぜひ参加していただければと。
ということで、『Butter / 柚木麻子』第1回目のニュースレターでの読書会。
・・・お知らせしていた5章 (P113)までの感想をざっくりと。
個人的な感想
・・・あえて話の筋というよりも脇に逸れたような雑感を箇条書きで。
もちろんネタバレありなので、未読の方はご注意を。
・実際の事件をもとにした作品、ということで重たい感じなのを予想していたら、案外ポップで読みやすい。
・”バター”がテーマなので、さすがにごはんの描写が食欲をそそる。
・エシレバター、使ったことないけど一度は試してみたい。(100gで2500円は高すぎでしょ!)
・容疑者がブロガーなのも、個人的に共感を覚えてしまうな~
・たよりない男性の描き方、実際にいそうな人ばかり。
・フェミニスト的な視点の描写も多いけれど
単なる男性批判に終わらず、女性側の落ち度についても触れているのが現代的だなと思った。
・容疑者と主人公の関係、レズビアン的なクィア・リーディングもできそう。
・最近ミステリーを読んでなかったけれど、レイモンド・チャンドラーの『ロング・グッドバイ』を並行して読んでいて、やっぱりミステリーっておもしろいなと。
あちらはハードボイルドな男性性が支配する物語なので、現代日本社会との対比がより際立って感じられた。
・『ババヤガの夜』からの流れで、「バター」もSNSでかなりの人が手をつけているようなつぶやきを見た。
・海外(特にイギリス)でヒットしているだけあっておそらく映像化もされるだろうなと。あえて日本のドラマ的な感じに徹すれば、それなりに当たりそう。
Music
「Butter / BTS」
「Dynamite」に続いて K-POPのブームを巻き起こした曲。
もう少しひねった曲を選ぼうかとおもったけれど、バターがテーマとなるとあと何があるだろうな・・・。
この小説に合いそうな、いい感じの曲があればコメントいただければと。
Quotes:
印象に残った文章の引用をいくつか。
漠然と夢見ている女性社員初のデスクの地位も、梶井の言う、異性をおびえさせる何かであることは間違いない。男の目なんてどうでもいい、と開き直れるほど、自分は強い人間なのだろうか。ああ、加減がよくわからない。伶子の言う適量が自分にはわからない。
何度も描かれる、女性性の自分の生き方の揺らぎ。
焼き目のついたフォアグラの皿にだいだい色のあんぽ柿のバターソテーが添えられていた。バターは塩が効いているぶん、ねっとりとどこまでも絡みついてくる果肉を存分に引き立てている。執念さえ感じる旨さは、木になる実とは到底思えない。フォアグラの舌で押すだけでぷつりと壊れる柔らかさ、そこから流れ出す血の香りや濃厚なとろみに少しもひけをとらない、甘く崩れる肉のようだ。
恵比寿の高級レストランでの食事の様子。
「いくらなんでも肩入れしすぎじゃない? 死んだ男たちが全員、梶井の生活についていけなくなって体調や精神状態を崩して勝手に死んだなんて、まさか本気で考えているんじゃないでしょうね。ねえ、彼女が無実だっていいたいわけ?」
徐々にカジマナ(容疑者)に取り込まれていく主人公の里佳。
「この腕も胸もお尻も、すべて私の好きなものがたっぷり詰まっているのよ。ニューヨークグリルのステーキや今半のすきやき、帝国ホテルのガルガンチュワのシャリアピンバイがこの身体を作ったのよ。ここでの決められた食事にうんざりするたびに、 美味しいものを思い浮かべて気が狂いそうになるたびに、自分の身体をそっと撫でたり、つまんだりするの。特に二の腕は冷たくてやわらかくて、舌を突き出してなめるとね、かすかに甘みがあるのよ」
ナルシズムに満ちたカジマナのことば。なんだか『羊たちの沈黙』のレクター博士をふと思い出したり。
参考になったリンク集
個人的に参考になったリンクやをいくつか貼っておきます。
・柚木麻子が海外から持ち帰った「希望」と「絶望」 | クーリエ・ジャポン
「日本では『本を読むこと』が知的で称賛される行為とされていて、そこには“ランク”のようなものがある。この本を読んでいるあなたは知的レベルが高いね、というような選別が」。柚木は日本の出版文化をそう表現する。一方で海外、特にイギリスでは、読書はもっと開かれた行為であり、誰でも楽しめるものとして根づいているという。
イギリスでは作家が創作に集中できる環境が整っており、富豪が“お城”を貸し出してくれるケースすらあるという。
イギリスでは皮肉やユーモアが重視され、『BUTTER』の持つブラックユーモアが高く評価された。「私の作品、『BUTTER』が一番ユーモアがあるって評価されたこともある。日本ではそんなこと言われたことないんですけど……」
「村田さんや川上さんはもともと国内での評価も非常に高いので、そうではないと思うのですが、私の場合は国内外での差が激しかった。だからこそそう感じます」
「小説って、結局は“政治”なんですよ」。
インタビューの内容としてちょっと”日本下げ”が強いかなぁ・・・とは思いつつも、意見としてはほんとまっとうだなと。
少なくとも私が今回持ち帰ったのは、 『日本の女性作家はこれからもっと売れるし、もっとスターになれる』ってことです」と力を込めた。
現在、柚木は日本の伝統芸能を題材にした小説の執筆の準備中という。
・海外で『BUTTER』が大ブームに! 柚木麻子さんに聞く、世界の中の東アジア文学
イギリス人から一番聞かれたのは、出版社の正社員で も女性は役職につけないのか、ということです。そこにみんな驚いていました。それと、里佳は体重が増えた時 に周囲からそれを指摘されますが、こういうコミュニケ ーションは日本では普通なのか、って。里佳の親友の冷子は見たことのないキャラクターと言われて人気だったし、里佳の恋人の誠が若い女性里佳の恋人の誠が若い女性アイドルのオタクであることには引いていました
体重増えたとき、「太った?」と欧米でも普通に聞く気はするんだけどm
だから評価されているのは、“書く勇気”が加点されたからかもしれないなと感じています。よく耳にしたのは「アクティビズム」という言葉です。「この作品はアクティビ ズムがあるか」とか「あの作者にはアクティビズムを感じない」とか。
今のアジアの作家って、作品の 魅力が伝わっているというより、過酷な環境を同情され ているのかな、とも思いました。
今の日本って、闘ってるって思ってない人でも、すごく 闘っているんですよ。自分は毎日楽しく暮らせるように 頑張っているだけだし、ささやかなことしかしていない と思っていても、英語圏の人から見るとささやかどころ じゃなくて、「お前強いぞ」となる。作家に限らず、みん な、自分のやっているささやかな行為にも社会的な意味 があるって気づいたらいいんじゃないかと思います
Q&A
個人的に気になる質問をいくつか。
「ねじまきBBS」で回答お待ちしてます。
Q1. 5章までで、一番好きな場面は?
→ 恵比寿のジョエル・ロブションという高級レストランで食事するシーン。
実際に存在するレストラン、というのもなんか良いよね。
ガストロノミーと呼ばれるところで一度はごはんたべてみたい。
Q2. 柚木麻子さんの他の作品を読んだことがありますか?
→ 僕は初めて読む作品。海外でヒットしている日本の小説ということで手に取ってみた。
あと、ポッドキャスト番組『Y2K新書』のパーソナリティであることをいまさらながら気づいた。ふつーに聴いてたのに。もう終了した番組だけどLGBTQ的にもカルチャー的にも面白いので興味ある方はぜひ。
Q3. この本が好きな人におすすめの別の作者の本は?
→ 『マスタードをお取りねがえますか。 / 西川治』
料理エッセイ。食事の描写に惹かれた方ならこれも楽しめるはず。(男くさいけど)
・・・ということでそろそろこの辺で。
次回は月末に配信予定。
11章 (P361まで)読んでいただければと。
最後まではスケジュール的に書ききれないので、ブログかなにかにまとめるつもり。
ほかに感想・気になった点、読書の進捗なども、
掲示板「ねじまきBBS」やコメントでお待ちしてます!
最後にみなさんにアンケートを。
・2025年9月に読みたい本は?
『わたしを離さないで』は20周年記念ということで、今年中には再読しようかなと。
シスターフッドを描いた話題作『ババヤガの夜』も、Butterを読んでる方なら興味ある読者は多いはず。
気軽に投票いただければ幸いです!
※来月8月は『五分後の世界 / 村上龍』の読書会を予定してるのでお楽しみに。
ひさびさに読むけど、『コインロッカーベイビーズ』に並ぶぐらい面白いのでぜひ。
・メインのニュースレター「ねじまき通信」も近日中に配信予定です。