二つの訳を読み比べる
どうも、ねじまきです。
『 ナイン・ストーリーズ / J.D.サリンジャー』 繁尾久 (翻訳), 武田勝彦 (翻訳))の読書会、忙しくて完全に個人の感想を垂れ流すニュースレターになっちゃいましたが、月末の配信はなんとかしておこうかなと。
もちろん一応は読み終えたけれど、
「ん?」と完全に飲み込みきれない話がいくつかあって、
名解説本とされる『謎ときサリンジャー』を読まねば、ニュースレターも配信せねば、と思いつつも結局読めずに今に至る・・・。
ざっと3つ、お気に入りの短編に絞って軽く感想を書こうかなと。
(※ここからネタバレありです。)
「バナナフィッシュにうってつけの日」
特に有名な”バナナフィッシュ”。
学生のときにこの短編だけ読んでからこの短編集を積読していたので、
この話はさすがに懐かしさを感じた。
「いいことをしよう。バナナフィッシュをつかまえられるかどうかやってみようじゃないか」 「なにをですって?」 「バナナフィッシュだよ」と彼はいって、ローブのひもをはずした。彼の肩は白くやせていた。彼の水泳パンツは濃紺だった。
位置: 207
なんだかよくわからないけど、グイグイ読み進めちゃうこの感じ。
「そうだね、彼らはバナナがたくさんある穴のなかに入ってゆく。泳いで入るときはごくあたりまえの魚なんだよ。でもいったんなかに入ると、まるで豚みたいにふるまうんだ。なんだよ、ぼくはバナナフィッシュが何匹かバナナの穴に入ってって、七十八本もバナナをくらったのを知っているんだよ」
特のセリフ回しもええ感じ。
やっぱり最後のあっという展開よ・・・。
それから荷物の一つに歩みよってそれをあけた。半ズボンや下着のかたまりの下から、彼は口径七・六五ミリのオートギーズ自動拳銃をとり出した。彼は弾倉をとりはずし、あらため、それからもとに収めた。
最後の数節、「急になんやねん」って感じのそれなんだけど、
考察のしがいがある名短編。
雰囲気込みで人気なのもまあわかる。
『謎ときサリンジャー』、図書館で借りてこなければ。
「笑い男」
団長によって語られる「笑い男」の物語が挿入される、不思議な物語。
この短編全体というよりも、
野球で男子と女の子との交流の描き方がほんとうに巧くて好き。
わたしたちがバスをおりるとメアリーも一緒にくっついてきた。野球場に着くまで、コマンチ団の全員が、「どこやらのお嬢さんは家に帰る 潮時 を知らないんだなあ」という顔をしていたことは確かであった。
彼女はキャッチャー・ミットをはめていた。どうしてもそれがいいといい張ってはめていたのだが、見られた姿ではなかった。
彼女は第一球を力まかせに叩いた。すると球はレフトの頭上をぬいた。普通なら二塁打というところであったが、メアリーは三塁に達した。それもゆうゆうと。
団長とメアリーのあいだでどんなことが起こったのか皆目見当がつかなかった(そして今でも依然として、かなり幼稚な直感によるほかはわからずじまいである)。
アメリカ人のノスタルジーを刺激しそうな文章。
団長が「笑う男」の話を語るのを子供たちが楽しみにしている、
そんなバスの風景も日本人の僕にさえありありと思い浮かぶので、さすがに良い。
あとがきで
”芥川龍之介の「河童」の世界が再現されているようにも思える”と書いてあって
なるほどなと思った。
「テディ」
天才児が客船の中で学者と人生や神について語りあい・・。というおはなし。
個人的に映画『シックスセンス』の男の子で補完しながら読んでました笑
「『 頓 て死ぬけしきは見えず蝉の聲』」テディは唐突に口ずさんだ。「『 此道 や 行人 なしに秋の暮』」
この物語でこの俳句を引用するセンスよ。
サリンジャーの東洋趣味って、あまり詳しくないんだけれど、
どういう経緯から来たんだっけ?(また調べねば)
「ええ、もちろんぼくは神を愛しています。でもぼくは神を感傷的に愛しはしない。神は誰に対しても感傷的に我を愛せよといってはいません」
10歳のこどばには思えない。
「ぼくは両親にとても強い親和感をいだいている。つまり彼らは、ぼくの両親だ、ということです。それから、ぼくたちはすべて、相互の融和や何やかやの一部でもある」テディはつづけた。「ぼくは父母が存命中に楽しんでもらいたい。というのも彼らはおもしろおかしく暮らすのが好きだからです……。
…ところが、そのなかに水が全然ないということもあるでしょう。きょうは水を取り替えるかなにかする日であるかも知れません。でも、たぶんぼくはプールの端まで歩いていって、ほんの一瞬、ちょっと底をのぞいてみたとします。すると妹がやってきてぼくを突き落とすようなかっこうになる。ぼくが頭蓋骨折で即死するということもありうるのです」
ナインストーリーズ、2つの翻訳を比べながらよんだけれど、
印象が全然違って興味深かった。
どれも浅い感想ですみません、
みなさんの感想やよかった短編もコメントお待ちしてます。
音楽プレイリスト(Spotify)
本のテーマに合った曲をチョイスしてプレイリストにまとめるコーナー。
下記プレイリストの最後の4曲が今回追加した音楽になります。
ルー・リードの「Perfect Day」から「笑う男」まで。
ぜひ、読みながら聞いてほしいなと。
Q&A
Q1. 特にお気に入りの短編は?その理由は?
上の三つ以外に、哲学のようにつかめそうで掴めない一篇「小舟にて」も個人的にお気に入り。いろんな短編で日本や東洋の言葉が引用されていて、そういうところへの造詣も深いんだな、と感心した。
Q2. サリンジャーという作家に感じたことは? (文体・物語性etc…)
『ライ麦畑でつかまえて』のように衝動的な、心からわきあがることばをそのまま書くのがうまい小説家かと思っていたので、
この短編を読んだらずいぶんイメージが変わった。
ストーリー重視の短編はかなり気に入ったけれど、
サリンジャーの書く男女の恋愛の心のゆれ動きみたいなのに、
心の底からは楽しめないので、個人的に相性は良くない作家だなと思ってしまった。
(サリンジャー好きな方すみません・・・。たぶん僕の読みが甘いだけなのです)
あと登場人物のセリフ回しがけっこうハイコンテクストなので、日本人にはつらいところが結構あるように感じた。
さりげない気配りで時代背景を読者に示すところとか特に。
伝記映画もいくつかあるみたいなので、ぜひ観てみたいなと。
「この本もおすすめ」
ちょっとわけわからなさもあるおしゃれで含みのある短篇小説、
となるとやっぱりカポーティが似ているのかも。
「ミリアム」「夜の樹」「感謝祭のお客」あたりは
ナインストーリーズの作品群に近く、より読みやすいかと。
サリンジャーの掴みどころのない小説を読んで、
自分はストーリー重視の読み方をする読者なんだな、と改めて思った。
新訳ドラキュラの感想振り返り
1日5ページ、新訳ドラキュラを読むという試みをはじめてから一カ月。
100ページ以上読んで予定通り6章の終りまで到達。
感想を章ごとにざっくり書いているのでよければ読んでみてください。
いろんなゲームやドラマの元ネタなのかな?という場面が読み進めるごとに増えて行って、ドラキュラの影響力の高さを序盤にもひしひしと感じた。
・・・今のところめっちゃ面白いです。
1日5ページのペースを越えないようにするのが難しいほど。
読書会振り返り
年末の時間が取れず、10日ごとに一回配信を全く守れず月末配信になりました。
まあまだ方向性が完全に定まってない二か月目なので、
こんなこともあるだろうなと。
( 待っててくれた方、肩透かしですみません・・・。)
ということで来月の予告を。
1:『やし酒飲み / エイモス・チュツオーラ』 (12月の読書会)
2:新訳『ドラキュラ』の一日5ページ読書会 (※2024年4月に読了予定)
の2つを平行して読んでいきます。
やし酒飲み、アンケートでも第二候補にあがっていたので、
積読してる方は気軽に参加してみてください!
(できれば10日ごとに感想書いていきたいなと)
「ねじまき通信」も近日中に配信できるかも。